女ゴコロをつかむ商品開発と 社内プロジェクト の進め方

女ゴコロマーケティング研究所の主催した「~事例に学ぶ商品づくりから売り方まで~ 女性視点マーケティング成功の秘訣」より、社内に女性プロジェクトを立ち上げ、商品開発から販売まで一貫して自社で取り組み、大成功をおさめた株式会社ヤマヒサ ペットケア事業部からプロジェクトの総責任者を務めた山田武史氏(現 株式会社ぺティオ 代表取締役社長)のセミナーをご紹介します。
※所属・肩書き等はセミナー開催当時のものです。

講師プロフィール

株式会社ヤマヒサ 専務取締役
ペットケア事業部 部長 兼 マーケティング本部長
 山田 武史 氏

早稲田大学大学院卒業(MBA)。会計事務所、ニューヨーク大学大学院日米経営経済研究所等を経て2006年、株式会社ヤマヒサ ペットケア事業部に入社。入社後、営業企画室においてペットケア総合ブランド『ペティオ』のブランドロゴ、パッケージの変更、商品企画などブランディングの強化に取り組む。のちに営業部長を経て、2011年に専務取締役に就任。現在ペットケア事業部長兼マーケティング本部長を務める。入社間もない女性開発社員を中心メンバーとするプロジェクトの組織運営を実施することにより、これまで「道具」と位置づけられていたペットの手入れ用品を「美容グッズ」とした位置づけへと企画開発し、ペットケア用品のメイン購買層となる女性へのアプローチに成功を収める。一般社団法人日本ペット用品工業会、一般社団法人ペットフード協会の理事などペット業界の活性や啓蒙にも取り組む。
※所属・肩書き等はセミナー開催当時のものです。

拡大を続けるペット市場。しかし、ペットの小型化、室内化により、市場環境は激変しました。
変化に対応すべく、動き出したプロジェクトで発せられた「自社にも他社にも欲しい商品がありません!」という入社2年目の女性社員の声から、ぺティオの成功ストーリーが始まりました。
プロジェクト総責任者 山田武史氏が語る、女性市場のとらえ方とは?女性プロジェクトの進め方とは?

弊社は、1973年にリフォームを中心とした建築業として大阪市で創業しました。ペットケア事業への参入は、26年前の1986年でした。
「なぜ建築業がペット業界に?」とよく聞かれるのですが、戸建てのリフォームや増改築、キッチンの拡張などで、お客様のお部屋の中に入らせていただくことが多くなりました。そのころから営業マンが「ペットを飼っているご家庭が増えている」という話をよく耳にするようになり、次の新規事業ということでペット業界に参入することになったわけです。

ペットケア業界のメーカーは100社以上あり、ペット用品も食品、おやつ、首輪、ケア用品など弊社で取り扱っているだけで、約3000アイテム以上あります。そんな中でもおかげさまで、2006年には、伸縮リードで3度グッドデザイン賞をいただき、今年の6月には中国法人も設立させていただくことができました。

ペット業界の市場規模・動向

ペット業界の市場ですが、2007年のマーケットは3775億円、2011年には3946億円に伸び、2015年には4056億円になるであろうと予測されています。また、国内の15歳以下の子どもの数は1700万人といわれる中で、ペット数は実に2200万件、子どもの数より多いのが現状で、世帯の25%が、なんらかのペットを飼育している計算になります。

ペットといわれる分野には、メインマーケットの犬、ネコの他に観賞魚、爬虫類、小動物などがいて、それぞれにマーケットが存在しています。

ペットやペット関連商品の購入先として一番多いのは、実はペットショップではなくホームセンターなんですね。その他GMS(General Merchandise Store:総合スーパー)、SM(スーパーマーケット)、最近勢いがあるのはドラッグストアです。シェアとしては54.7%だったホームセンターが50%を切るくらいに推移して、SM、ドラッグストアに広がってきている状況です。
われわれのメインチャネルであるホームセンター自体、売り上げの40ヶ月マイナス、オーバーストア化、低価格競争などにより、非常に厳しい状態が続いていました。

また、時代の流れとともに、ペット自体も変化してきました。屋外で飼育されていたペットが屋内へ。10数年前に流行った大型犬から現在はペットの小型化が著しく、大型犬と小型犬では食べる量が10分の1も違うために私たちの扱うペットフード部門に大きな打撃をもたらし、消費が減る中で価格をいかに維持していくかが課題となっていきました。

弊社では"PETIO(ぺティオ)"の他に、"Add.Mate(アドメイト)"、"zuttone(ずっとね)"の計3種類のブランドを展開、売り上げ規模はメーカー出荷ベースで140億円、そのうちの93%が"PETIO(ぺティオ)"の商品で、量販型ブランドとして全チャネルに販売させていただいております。

そして、"PETIO(ぺティオ)"では補えないお客様のご要望に応える形で、プロショップ向けの"Add.Mate(アドメイト)"、医療、ペットフードの進化に伴うペットの高齢化に対応した商品"zuttone(ずっとね)"などを開発、販売しています。

女性プロジェクトの立ち上げ~商品開発

こういった環境の中、主な販売先がホームセンターである商品のひとつ、グルーミングケア部門のシェアが、2006年の19.5%をピークに、2008年ころには16.8%と急激に下がっていきました。
このまま推移すると10%台に下がってしまうだろうという危機的予測を見越して、「どうやったらシェア奪還できるのか」と社内でミーティングを重ねていました。そんな時、プロダクトデザインを学んできた入社1~2年のスタッフにあるひとことを言われます。

「自社にも他社にも、私たちの欲しい商品がありません。」

それを聞いて私は、「今までお客様が欲しくない商品を開発してきたのか!」と、とてつもない衝撃を受けました。

これまでの私たちは、いわばホームセンターというメインマーケットに既にあるものを想像して商品を開発していました。「ホームセンターといったら工具的なものじゃないといけない」とか「DIYでないといけない」とか。そしてそれがあたりまえという既成概念にとらわれていました。
一方で、その新入社員の声は"ユーザー視点"、ユーザーが持つ"本音"でした。
そのことに気づかされたわけです。

「このままではカテゴリーから外されてしまう」「何か手を打たなければ」という危機感から、グルーミングケア部門の戦略を立て直すことにしました。

戦略の立て直し ステップ1 外部環境・マーケットボリュームの再分析

「同じことを繰り返していたら同じ結果しか生まれない」という考えのもと、まず私たちが取り組んだことはグルーミング部門のマーケットボリュームの再分析でした。これからの市場はどう変わっていくのか、お客様はどう変わっているのか、どんな犬がブラッシングされているの?売り場というのはどういう風に変化しているの?われわれがターゲットとしていたお客様は本当にあっていたの?新規顧客の開拓は可能性があるの?そういったことを一から再分析し直しました。

外部環境の状況として、まずメインチャネルであるホームセンターの顧客動向を調べました。これまでのホームセンターというのは、どちらかというとリフォームなどを行っている現場の人も工具を買いに来るような、プロ向けのDIY工具を中心に展開していることが多かったのですが、最近ではガーデニング、ペット、日用品など生活に密着した商品が多く置かれるようになりました。

その中で私たちが注目したのが、トリミングサロンの併設でした。ホームセンター内に、ペットの生体を置いてトリミングサロンを併設する形が主流となり、女性だけでなく、小さなお子様を連れたファミリー層も週末に来店するというマーケットに変わってきたのです。

これまでのホームセンターと比べ、お客様の趣向が変わり、美容院に連れて行くほどに犬の美容について興味があるお客様がいらっしゃるということがわかってきました。トリミングサロンの利用料は月平均4000円で、年々伸びていました。トリミングに興味があるお客様は、グルーミング用品にも興味があるはず。トリミングサロンの物販部分を奪取すれば、私たちの収益も引き上げられるのでは、と考えたのです。

グルーミングケア部門のマーケット規模は約25億円で、現状はあまり大きくないのですが、トリミングサロンの実績が114%と伸びており、今後の潜在マーケットとして10数%は奪取できるだろうと考えました。

ステップ2 競合他社分析

次に競合動向の分析に着手しました。グルーミングケア部門の商品ラインナップは、現在市場に出ているだけでどれくらいあるのか、価格帯、どういったプロモーション施策を打っているのか・・・

実際に調べてみると、各メーカーから出ている商品は、どれも差異なく似たり寄ったり。いったい何が違うの?と私たちも感じたくらいでした。

これまではメインチャネルと競合を意識してとにかく安く、値ごろ感、DIYにあわせた商品開発を意識してきていました。それ以外にも高性能など、男性視点での"スペック"を変えて機能をいろいろ追加してみたものの、あまり売り上げは伸びませんでした。

ステップ3 自社分析

自社製品のターゲット像についても、当時は「すべてのペットの飼育者」という大きなくくりだけで、実際の使用者を意識できていなかったのが現状でした。そこで、それまであまり行ってなかったユーザー調査を行ったところ、ペットの世話や用品を購入するのは8割女性ということが見えてきたのです。これならターゲットを女性に絞り込んでも勝算はあると確信し、開発に女性の意見を取り入れようと考えました。

弊社の女性社員に「なんでうちの商品欲しくないの?」と聞いてみると「何に使うかわからない」「自分の持ち物とデザインが合わない」「男性的なデザイン」「工具みたい」「どれも同じに見える」といった声が多数集まってきました。そしてよくよくこの話を分析していくと、これまでの業界の最大の特徴であった"ユーザー(使用者=ペット)"と"ショッパー(購入者=飼育者)"は違うという点が、実はこのカテゴリーだけ同じだったということもわかりました。

現場基点の変革スタート~女性プロジェクト始動

こういった調査結果から、グルーミングケア用品のターゲットが女性なのであれば、「うちに欲しい商品がありません」と言っていた女性スタッフに「自分が欲しくなる商品をつくってみては?」と、チーム編成をして女性だけで考えてアイデアを作って欲しいとお願いしました。

今までと同じやり方、メンバー、考え方を変えなければ同じ結果になってしまう。同じ過ちを繰り返すことになりかねません。それなら新しい方法に賭けてみようということで、女性スタッフを信頼し、チームには、私を含め男性立ち入り禁止としました。

プロジェクトを進めていくにあたって、誰を巻き込んで行くかというのはとても重要な点になります。今回のプロジェクトの女性メンバーたちも基本は女性の商品開発担当でしたが、マーケティングミックス、プロモーションなどを進めていく際には、実に多くのスタッフを巻き込んで行きました。
また、「誰となら夢を叶えられるか」「楽しく仕事ができるか」「ワクワク感を共有できるか」「やる気の芽は極力摘まない」といった感情的要素も、プロジェクト運営に大きく関わることがわかりました。

Price・Place・Product・Package・Promotionの5P戦略のうち、ProductとPackageに女性パワーを集中させました。値ごろ感は外さずメインチャネルにあわせて行くことを基本に、パッケージについては、どういうものが流行っているのか?売り場の他の通路に行ったらどんな商品があるのかを調べながら、女性の好む色、女性の手に合うサイズ、ボトルの形状などを研究して、"シンプル・ナチュラル・キュート"をコンセプトに新たに加えて再設計していきました。

実際の商品を手に取ってみないと訴求ポイントがきちんと伝え切れないことのないように、通路を歩くだけで、女性だけでなく高年齢の方の目にも入りやすい、わかりやすい文字の大きさ(フォント)を意識しました。フォントの大きさを変えると同時に、お客様の「何に使うかわからない」という声から、商品名よりも「何に使うものか」を大きく記載して、グルーミングケアの知識がないお客様にもわかりやすく伝えられるようにしました。
その他にも、女性の意見を積極的に取り入れて店頭で商品を見つけてもらいやすいように、「部屋においてあるようなイメージ」を表現するVMDを採用したり、商品の持ち手を変え、ピンク色をベースに使ってやさしい印象と風合いを醸し出したり、媒体を使った告知などもさまざま取り組み、やわらかく伝える目的で手書きPOPなども採用しました。

再設計を機にブランドネーミングも変えました。ネーミングはコンセプトを伝えるためにも重要で、今回ペットを大切にしたい"プレシャス"と輝かせたいという意味の"ブリラント"の2つの思いを込めて『Preciante(プレシャンテ)』と名付けました。

こういった取り組みの結果、シェアが23.8%までに上昇、現在も更新中です。現在は35アイテムを展開中で、いままでマーケットになかった商品、"ミスト"や"肉球をプルプルにするジェル"なども開発しました。もともとグルーミングケアは単なる"ブラシ"というカテゴリーでした。業界にどっぷりつかっている人間だけでは生まれてこなかった。これは本当に女性ならではの発想と思います。以上が4年前の女性プロジェクトの取り組みです。現在も継続挑戦中です。

“女性プロジェクト”は組織の変革ドライバーのひとつ

これまでお話させていただいた女性プロジェクトは、4年前に行った弊社の取り組みですが、では、現状はどうなっているのか、社内的にどういう位置づけだったのかという点についてお話をさせていただきたいと思います。

冒頭にも述べたように、ヤマヒサはもともとカーポート、サンルーム、バスルーム、キッチンなどのリフォーム事業、それから戸建、注文住宅などの建築事業を扱うようになりました。当時は、営業重視で、とにかく売るためには営業マン第一、男性優位の組織風土、DNAが色濃く残る会社でした。

私は常々、その風土を変えなければいけないと思っていました。なぜ変えなければいけないかといえば、時代の流れとともに需要と供給が変わってきたからです。需要が伸びているときは営業主体で実績を上げることができました。でも今はモノがあふれた時代。いかに買い替え需要を促して行くか、需要を掘り起こしていくか、お客様に“新しい課題と発見”を生み出し提供していける組織文化に変えなければ生き残れないと強く感じていたのです。
社内でも「強いもの大きなものではなく、変化に対応したものが生き残る」というダーウィンの進化論を用いて、変化の重要性をよく話しています。
そんな中で、4年前から取り組んだ女性プロジェクトは「マーケティング型の組織運営」に風土を変える“変革ドライバー”のひとつだったという位置付けだったと、私は考えています。

われわれは「共感の醸成」をテーマに「自ら先に挑戦し、挑戦しないことがリスクである」との組織文化を醸成しようと改革に取り組んできました。
まず外部環境の変化として、人口減少、少子高齢、デフレなどにおける影響、原材料が不足してくる。そして、インターネットにより情報格差が減少してきている。いままで日本は技術力・情報量で優勢だったけれどアジアとの格差がなくなってきている点に危機感を感じました。

それからわれわれのチャネルである小売店の状況。オーバーストア化が進み、業界間競争が激しくなってきました。ホームセンター同士でなくスーパーやドラッグストアと戦うようになりました。マーケットが小商圏化してきているんですね。このように外部環境は今まで以上に早く変化してきていると考えています。

この外部環境の変化を踏まえて、自社戦略として7~8年前から3つのステップに則って、事業変革を進めています。

ステップ1として、まずCIを変えました。これは会社としての本気度を従業員に伝えるためです。会社は本気で変わるということを、まず誰でもわかる変化で伝えました。私は、環境でしか変えられないことがあると考えています。どうやって本当に組織変えて行くかといったら環境の変化をうまく使う。社内のフロア、オフィスも変えました。環境を新しくすることで汚さない、物を大切にする組織風土や意識を変えていきました。

次にステップ2として、ここで女性プロジェクトの取り組みが始まります。何度も申し上げていますが、女性の開発チームは組織の変革ドライバーになってくれました。そして組織の中で成功事例の醸成にも大きく貢献してくれました。環境を変えるだけでなく、実際に成功するメンバーを作って行く。これも組織風土を変える上で重要な要素だと思います。

そしてステップ3ですが、その変化のレベルをグローバル水準に引き上げていきたいと考えています。国内市場をマーケティング機能のコア、基地としての本部機能に、そして日本の特性を活かしたブランドを海外市場に広めていきたいと考えています。

この自社戦略の取り組みで、女性が果たした役割は本当に大きかったのです。

組織の中から、次の市場や顧客を創造していくということがわれわれにとってとても大事なことと思います。

人口の半分は女性です。この女性マーケットの動向をきちんと捉えて、次のマーケットに進んで行きたいと考えております。

まとめ

(1)市場環境が急速に変化している

今までもデフレ・低価格化と言われていますが、その中で小売店も今までのやり方を変えなければ、売り上げは維持できないと考えています。その変化しようというタイミングに合わせて、私たちも一緒に変化していかなればならない。変化するためには、まず社会や市場がどのように変化しているのかを知ることが重要です。そして既成概念を疑うこと。これまで私たちは「ホームセンターはDIYだ」という発想から脱せなかったのですが、その域を脱せたのは女性スタッフのおかげでした

(2)上長は"ビジョン"と"目標"そして"本気度"をきちんと伝える

女性にまかせるというのは不安だったり、大丈夫だろうかと思ったりすることもあるかもしれない。けれど女性も男性上長もみんな同じ気持ちです。まずは女性を信じるということが大切だと思います。

(3)男女それぞれの強みを活かしたチーム編成

女性が得意な部分もあれば、男性が得意な部分があります。今回のプロジェクトでは、女性たちが開発した商品の小売店への導入については男性社員が裏で動きました。
仕組みを作る、営業特性を活かすというのは男性の方が長けています。取引先への橋渡しは男性が行い、商品の見せ方、特性、ユーザー動向を女性に話させるという役割分担が功を奏したのだと思います。
また、ホームセンターなどの小売店は、男性の幹部が多いのですが、実は彼らも自分のお店の来店客に女性のお客様が多いことを知っている。どうにかしたいと考えている。でも女性の特性を集めることができない。部下は男性が多い。そこで私たちメーカー側の女性スタッフが話すことが有効だったのではと考えます。
男女混合の組織を再編成する。そのためには男性にはショック、女性にプレッシャーを与え、信用していると伝えることが大切だと思います。

(4)マーケティングミックスの再構

マーケティングミックスを実施する上で重要なのは、ユーザー調査をしっかり行うことです。思い込みではなく、"本当のお客様を見つける"こと。業界慣習にとらわれないということが非常に重要です。1

(5)士気を高める

小さな成功体験の積み重ねが、組織風土を高めるためにも重要です。そして商品は企業風土をビジュアル化したものであると考えます。


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